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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8489号 判決

原告

ラ・シュミーズ・ラコスト

原告

三共生興株式会社

右両名訴訟代理人弁護士

板井一瓏

右輔佐人弁理士

小谷武

被告

新進貿易株式会社

被告

有限会社ミウラ

右両名訴訟代理人弁護士

大原誠三郎

関谷巖

沖信春彦

平岩正史

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、別紙第二目録(一)の標章(以下「被告標章(一)」という。)を附した被服を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示し、又は輸入してはならない。

2  被告らは、各自その所有する前項の被服を廃棄せよ。

3  被告らは、別紙第二目録(二)又は(三)の標章(以下、それぞれ「被告標章(二)」、「被告標章(三)」という。)及び「LACOSTE」の文字の標章(以下「LACOSTE標章」という。)が附された織ネームが縫い付けられた被服を譲渡し、又は引き渡してはならない。

4  被告らは、別紙第二目録(四)の標章(以下「被告標章(四)」という。)及びLACOSTE標章が附された下げ札(タグ)をつるした被服を譲渡し、又は引き渡してはならない。

5  被告らは、各自その所有する前項の下げ札を廃棄せよ。

6  被告らは、1項の被服の広告に、被告標章(一)及びLACOSTE標章又は「ラコステ」の文字の標章(以下「ラコステ標章」という。)を附してはならない。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二  請求の原因

一  商標権及び専用使用権に基づく請求

1  原告ラ・シュミーズ・ラコスト(以下「原告ラコステ」という。)は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。

出願日 昭和四四年七月三一日

公告日 昭和四六年三月二九日

登録日 昭和五〇年九月八日

登録番号 第一一五一八〇〇号

指定商品 第一七類 スポーツシャツ、その他本類に属する商品

登録商標の構成 別紙第一目録(一)のとおり

原告三共生興株式会社(以下「原告三共生興」という。)は、本件商標権について、その範囲を次のとおりとする専用使用権(以下「本件専用使用権」という。)を有している。

地域 日本全域

期間 昭和五三年一二月八日から五年間

内容 指定商品全部

登録日 昭和五四年六月一八日

2  本件登録商標は、動物のワニの形態を図案化した図形(以下「本件商標図形」という。)と、そのワニの形状にそい、その胴体部に図案化した「lacoste」との欧文字(以下「本件商標文字」という。)を表示したものであつて、右ワニの図形と「ラコステ」と読まれる欧文字の結合した商標である。

3  被告新進貿易株式会社(以下「被告新進貿易」という。)は、被告標章(一)をいわゆるワンポイントマークとして附したポロシャツ、ソックス、セーター、ジャンパー及び帽子(以下「被告商品」という。)を米国から輸入した上、販売しており、被告商品のうちポロシャツ、セーター及びジャンパーについては、その襟部分に被告標章(二)又は(三)及びLACOSTE標章が附された織ネームが縫い付けられ、また、これらの商品には、被告標章(四)及びLACOSTE標章を附した下げ札(タグ)が付けられた状態で販売している。

被告有限会社ミウラ(以下被告ミウラ」という。)は、被告商品を被告新進貿易から購入した上で販売しており、被告らはその宣伝広告に被告標章(一)、LACOSTE標章又はラコステ標章を附している。

4  被告商品は、本件商標権の指定商品に属し、被告標章(一)ないし(四)、LACOSTE標章及びラコステ標章は、いずれも、次のとおり、本件登録商標に類似する。

(一) 被告標章(一)ないし(四)と本件登録商標との対比

(1) 外観

本件商標図形は、次の特徴を有する。

イ 右向きの全体として横に長い形状をしていること。

ロ 短い四肢であること。

ハ 太くて長い尾をもちその先端が右向きであること。

ニ 口は長く突き出し、目の下あたりまで裂けていること。

ホ 口腔の上下に鋭い歯をもつていること。

これに対し、被告標章(一)ないし(四)は、いずれも、本件商標図形の右各特徴をすべて具備した形状からなつており、本件登録商標と外観において類似している。

(2) 観念、称呼

本件登録商標からは、「ワニ」の観念が生じ、「ワニ」と「ラコステ」の呼称が生じる。被告標章(一)ないし(四)も、「ワニ」の観念及び「ワニ」の称呼が生じるから、被告標章(一)ないし(四)は、観念及び称呼において本件登録商標と同一である。

(二) LACOSTE標章及びラコステ標章と本件登録商標との対比

LACOSTE標章及びラコステ標章並びに本件登録商標における本件商標文字からは、いずれも「ラコステ」の称呼を生じ、また、LACOSTE標章と本件商標文字は字体は異なるものの綴りにおいては同一であつて、外観において類似しているから、右各標章は本件登録商標に類似している。

5  したがつて、被告らの3記載の行為は原告ラコステの本件商標権及び原告三共生興の本件専用使用権を侵害するものであるから、原告らは、その差止め等を求める権利を有する。

二  不正競争防止法第一条第一項第一号の規定による請求

1  原告三共生興は、スポーツシャツ、帽子、ソックス等の被服にいわゆるワンポイントマークとして別紙第一目録(二)の表示(以下「原告表示」という。)を附したもの(以下「原告商品」という。)を販売している。

原告表示は、本件登録商標を刺繍により表わしたもので、ワニの図形の外周を白色糸でふちどり、ワニ本件を濃緑色とし、文字を黒色、口の下部を赤色にした特色のある配色の表示であり、シャツの胸等に縫い付けられたものである。

2  原告表示は、次のような経過を経て、我が国において、原告三共生興の販売する原告商品を示す表示として広く認識されている。

(一) 昭和八年に、原告ラコステの現社長ベルナール・ラコストの父ルネ・ラコストによつてポロシャツ等を製造する会社として設立された原告ラコステは、ポロシャツ等のシャツのマークとして「ワニ」を付け、世界各国の市場に販売を開始したところ、世界各国の大衆にアピールし、「ワニマーク」のラコステとして著名になり、世界的流行となつたワンポイントウエアの元祖ともいうべき存在となつた。

原告ラコステが、右のワニマークを日本においても商標登録をしたものが本件登録商標である(なお、外国においては、主として、被告標章(一)と同一のものが商標登録されている。)。

(二) 原告三共生興は、このワニマークの附された原告ラコステ製造のシャツを昭和三八年にフランスから輸入して販売を開始したところ、原告三共生興の宣伝活動と原告ラコステの厳格な品質管理により、昭和四三年から昭和四八年にかけて、ゴルフの大衆化とともに、ワンポイントマークのブームが訪れ、その分野の先駆者たる地位にあつたワニマークのラコステの名は不動のものとなり、原告表示が原告商品を示すものとして全国的に著名となつた。

(三) この間、原告三共生興は、昭和四六年四月、原告ラコステとの間に技術導入契約を締結して、ラコステ製品の日本における独占製造権、日本、韓国、台湾、香港及びシンガポールにおける独占販売権を取得し、これに伴い、本件専用使用権の設定を受け、爾来、原告ラコステの厳格な指示による高品質のシャツ等の被服を原告三共生興が製造した上、原告ラコステがその品質を保証するものとして、従前と同一の原告表示を附して販売している。

(四) 原告三共生興は、その後も一層の宣伝活動に努めたところ、昭和五二年に至つて、スポーツに対する関心が高まり、更にスポーツウエアを常時着用するようになり、特に若者の間でテニスブームが惹起したこともあつて、ラコステワニのスポーツシャツ、帽子、ソックスの売行きが増大し、この傾向は今日に及んでいる。

3  原告表示が右のように著名になると同時に、ワニマークのラコステシャツとして原告ラコステの略称でありその創立者の名前でもある「ラコステ」の名称も、原告三共生興の販売する原告商品の表示として、我が国において広く認識されるに至つている。

4  被告らの前記一3の記載の行為は、次に述べるとおり、原告商品の表示として著名な原告表示又は「ラコステ」の名称と類似の表示を使用して、被告商品と原告商品との混同を生じさせるものであり、これにより、原告三共生興は、営業上多大の損害を受けている。

(一) 被告標章(一)のスポーツシャツ、帽子、ソックス等におけるワンポイントマークとしての使用状況、位置関係、縫い付け状況等は、すべて原告商品のそれと同一であり、被告標章(一)は、ワンポイントマークとしては、別紙第二目録(一〇)のとおり、原告表示と同一の配色により刺繍されている。

あえて相違点を求めれば、被告標章(一)においては文字の表示がなく、その代わりにワニの胴体部分中央左から右にかけてノコギリ状の線が入つており、これが黒色糸で刺繍されていることである。しかし、濃緑色地にほどこされた黒色糸による線と文字とでは、至近距離ならばいざしらず、遠目にはほとんど識別できない。

なお、被告標章(一)の刺繍には、ワニの本体の色が青色のものも存するようであるが、形状はもちろん、その配置、大きさが共通する以上、右に述べたところと同一性の範囲を出ない。

(二) 被告らは、原告の商品表示として著名な「ラコステ」の名称を使用し、被告商品を「ラコステ商品」と称して販売している。

5  したがつて、原告三共生興は、不正競争防止法第一条第一項第一号の規定により被告らの被告標章(一)の使用の差止め等を求める権利を有する。

三  よつて、原告ラコステは、本件商標権に基づき請求の趣旨記載の判決を求め、原告三共生興は、主位的に本件専用実施権に基づき請求の趣旨記載の、予備的に不正競争防止法第一条第一項第一号の規定により、請求の趣旨1項、2項及び7項記載の判決を求める。

第三  請求の原因に対する被告らの認否及び反論

一  請求の原因一に対する認否及び反論

1  同1の事実は認める。

同2の事実中、本件商標文字が「ラコステ」の欧文字であることは否認し、その余は認める。

同3の事実中、被告らが被告商品の宣伝広告に被告標章(一)、LACOSTE標章又はラコステ標章を附していることは否認し、その余は認める。

同4及び5はいずれも争う。

2  被告標章(一)ないし(四)は、いずれも、次のとおり、本件登録商標に類似していない。

(一) 本件登録商標の出願日である昭和四四年七月三一日当時、現行の商標法施行令別表第一七類に対応する旧商品区分第三六類又は第三七類には、次の各構成の登録商標が存在していた。

(1) 登録番号第四〇四二一九号(別紙第三目録(一))

ワニを意味する英単語「ALLI-GATOR」の全文字を活字体の大文字で表わしたもの。

(2) 登録番号第四一二二九八号(同目録(二))

斜右方に向つて大きく口を開いたワニの図形とそのワニの口中に向つて頭を左にして羽ばたいている小鳥の図形を組合わせ、その左上方に「鰐鳥」と筆記体で書いた文字との結合からなるもの

(3) 登録番号第四二五〇九四号(同目録(三))

「CROCODILE-HILL」と英語の活字体大文字で全部表わしたもの。

(4) 登録番号第四四〇九四号(同目録(四))

地球儀の北半球部分の図の上に乗つている左を向いたワニの図形の下に「地球鰐」と肉太に書いた文字との結合からなるもの。

(5) 登録番号第四四二九四六号(同目録(五))

貝の図形の中に左を向いたワニの図形を描き入れ、その上に「WANI-KAI」と、下に「鰐貝印」と書いた文字との結合からなるもの。

(6) 登録番号第四五六〇八九号(同目録(六))

一般に星を表現するのに用いられている図形の中に、右下を頭にして右斜上方に向つて尾をはねたワニの図形を描き入れ、その上に「ホシワニ」と、下に「STARCROCODILE」と書いた文字との結合からなるもの。

(7) 登録番号第四六九〇二一号(同目録(七))

地球の図形を背景に左下を頭に右上を尾にしたワニを描いたものの上に「CROCODILEGLOBE」と下に「KUREHA」と書いた文字の結合とからなるもの。

(8) 登録番号第五〇七二〇三号(同目録(八))

王冠を背に載せ頭を左にして口を開き、右上に尾をはね上げたワニの図形の上に、「王冠鰐」、下に「KING-CROCODILE」と書いた文字の結合からなるもの。

(9) 登録番号第五一六九八六号(同目録(九))

頭を右にして口を開いたワニが頭に王冠を載せている図形とその下に「王冠ワニ」と書いた文字との結合からなるもの。

(10) 登録番号第五三〇二九〇号(同目録(一〇))

頭を左下にし右斜上方に向つて尾をはねたワニの図形と三日月の図形を組合わせ、その下に「月鰐」と筆記体で書いた文字との結合からなるもの。

(11) 登録番号第五七一六一二号(同目録(一一))

頭を左に尾を右上にはね上げた図形と、その左に左から右斜上方に「Croc-odile」と筆記体で書いた文字との結合からなるもの。

(二) 右の各登録商標のうち(1)及び(3)を除くすべてにおいてワニの図形が用いられており、また、右のすべてにおいてワニ又はワニを意味する文字が含まれている。したがつて、本件登録商標の出願時には、既に、ワニを観念させる文字及びワニの一般的な図形自体には、当該商標を他の商標から区別する力、すなわち識別力ないし特別顕著性がなかつたものというべきである。

本件登録商標においても、本件商標図形はごく一般的なワニの輪郭図たるを出ないものであるから、それ自体は何ら特別顕著性を有さない。

したがつて、本件登録商標の特別顕著性は、ワニの輪郭図と本件商標文字とが結合して一体となつた全体構成に存する。

(三) 以上のとおりであるから、本件登録商標からは、本件商標図形と本件商標文字が結合して一体となつた全体としてのみ外観が生ずるものであり、また全体としてのみ称呼、観念を生じるものである。

したがつて、本件商標文字のような欧文字の全く含まれていない被告標章(一)ないし(四)が本件登録商標の外観に類似していないことは明らかであるし、本件登録商標から単なるワニの呼称、観念が生ずるのではない以上、被告標章(一)ないし(四)が本件登録商標と称呼、観念において類似しないことも明らかである。

(四) 仮に、本件登録商標のうち本件商標図形にも顕著性があるとしても、次のとおり、被告標章(一)ないし(四)はその外観において本件登録商標と類似していない。

(1) 本件商標図形と被告標章(一)とは、次のイ、ロ、ハの各点において類似しているが、ニ、ホ、ヘの各点において相違している。

イ ワニの輪郭を線で描いたものであること。

ロ 頭を右に向け口を開き尾を上に上げていること。

ハ 口の開け具合及び尾を上げた角度がほぼ等しいこと。

ニ 本件商標図形は、図形の切り込みが浅く丸みを帯びており、全体におだやかな印象を与えるのに対し、被告標章(一)は、図形が深く切れ込みかつそれがすべて鋭角であることから、全体に鋭い獰猛な印象を与えること。

ホ 本件商標図形の尾、脚、上顎、下顎はそれぞれ細くしなやかに描かれているのに対し、被告標章(一)のそれらはそれぞれ太く頑丈に描かれている。

ヘ 被告標章(一)の胴の部分には、背と腹の境を表わしかつ獰猛さを強調するためと思われる鋭い折れ線が、また顎のかみ合い部分には同様の目的のためと思われる切れ込み線が、それぞれ描かれているのに対し、本件商標図形には、これがないこと。

(2) 右の共通点についてみるに、イの点は物を図案化して描くために常用される手段で、この点は識別要素たり得ない。

ロの点は、ワニの頭及び尾を、左右のいずれに向けようとも格別の意味はなく、事実、前記(一)の(4)、(5)、(7)、(8)、(10)及び(11)のワニの図形は左を向いているのに対し、(2)、(6)及び(9)のワニの図形は右を向いている。したがつて、この点も識別要素たり得ない。

次にハの点は、ワニを口を開けた状態で表現するのはむしろ常態というべきであつて、事実、前記(一)の各登録商標についてみても、口を閉じているのは(7)及び(10)のみで、他は口を開けている。しかも、本件商標図形の口の開け方は、前記(一)の(2)のように格別大きく口を開けているというのではなく、ごくあたりまえの角度で開けているにすぎない。尾の角度についても同様である。したがつて、この点も識別要素たり得ない。

(3) 一方、前記相違点について考えるに、これらの相違点のために本件商標図形のワニが柔和なユーモラスな印象を与えるのに対し、被告標章(一)は獰猛頑丈かつ悪役的な印象を与える点で、両者は全く異なつた図形となつている。

(4) 以上の点を総合すれば、本件商標図形と被告標章(一)とは非類似であり、まして、本件登録商標は本件商標図形と本件商標文字の一体不離の結合商標であるのに対し、被告標章(一)はワニ図形のみからなるものであるから、両者が類似しないこと明らかである。

(5) 被告標章(二)ないし(四)のワニ図形と本件商標図形との差異は、被告標章(一)について述べたものよりはるかに大きく、したがつて被告標章(二)ないし(四)も本件登録商標と類似していない。

3  LACOSTE標章、ラコステ標章は、次のとおり、本件登録商標に類似していない。

(一) 本件登録商標は文字と図形の結合した商標であるから、特別の事由のない限り、文字の部分を図形から切り離して称呼が生じるものではないし、そもそも、本件商標文字の第一字目は、IなのかCなのかも判然とせず、少なくともLとは認め難い。したがつて、本件登録商標からは、「ラコステ」という称呼は生じない。

(二) 被告商品の織ネームにおけるLACOSTE標章の使用態様は、別紙第二目録(五)又は(六)のとおりであつて、これらから生じる称呼は、「アイゾッドラコステ」又は「シュミーズラコステ」であり、また被告商品の下げ札(タグ)におけるLACOSTE標章の使用態様は、同目録(七)又は(八)のとおりであり、被告商品のポロシャツは同目録(九)のとおりの標章が附されたビニール袋に詰められて販売されているのであつて、これらから生じる称呼は、「ラコステアイゾッド」又は「アイゾッドラコステ」である。

(三) したがつて、本件登録商標の称呼とLACOSTE標章又はラコステ標章の称呼とが同一又は類似であるとはいえない。

二  請求の原因二に対する認否及び反論

1  同1の事実中、原告表示が本件登録商標を刺繍したもので、ワニの図形の外周を白色糸でふちどり、ワニ本体を濃緑色とし、文字を黒色、口の下部を赤色にしたものであることは認め、その余は不知。

同2冒頭の事実は否認し、同2(一)の事実中、外国においては原告ラコステは、主として、被告標章(一)と同一のものを商標登録していることは認める。

原告表示は、原告ラコステの商品表示として周知とはいえても、原告三共生興の販売する原告商品の商品表示として周知とはいえない。

同3の事実は不知。

同4中、被告らが請求の原因一3の行為をしていること(但し、被告商品の宣伝広告に被告標章(一)、LACOSTE標章又はラコステ標章を附していることを除く。)は認めるが、その余は否認する。

2  次に述べるとおり、被告標章(一)は原告表示と類似しておらず、被告商品と原告商品が混同されるおそれは全くない。

(一) 被告標章(一)と原告表示との対比

右一2のとおり、被告標章(一)は本件登録商標に類似しておらず、したがつて、原告表示にも類似していない。

また、被告商品に附された被告標章(一)には、ワニの本体が濃緑色のもののほかに、青、赤、黄及び茶の各色のものがあり、ワニの本体が濃緑色に限られている原告表示とは、その点においても類似していない。

(二) 誤認混同のおそれ

(1) 商品表示の相違

被告商品のポロシャツ等の襟部分の織ネームの表示は別紙第二目録(五)又は(六)のとおりであり、下げ札の表示は同目録(七)又は(八)のとおりである。更に、被告商品のポロシャツは、同目録(九)の襟章の附されたビニール袋に詰められて販売されている。

これに対し、原告商品のポロシャツ等の襟部分の織ネームの表示は別紙第一目録(三)のとおりであり、下げ札の表示は同目録(四)のとおりである。また、販売の際には、同目録(五)の標章の附されたビニール袋に詰められている。このような表示の相違により、被告商品は米国のアイゾッド・リミテッド(以下「アイゾッド社」という。)製の商品であり、原告商品は日本製で原告三共生興が発売しているものであることが明瞭で、両者が混同されることはない。

(2) 原産地表示の相違

仮に商品表示が類似しているとしても、被告商品には、「MADE IN U.S.A.」の表示があり、一方、原告商品には、別紙第一目録(四)のように、下げ札に「※此の製品はフランスラコステ社の技術を導入して日本で製作したものです。」という表示があるから、原産地を異にしていることが明瞭で、両者が混同されることはない。

(3) 形態等の相違

被告商品と原告商品とには、例えば、ポロシャツにおいて対比すると、次のような相違点がある。

イ 前者は素材が綿一〇〇パーセントで、吸汗性、着ごこちが良いのに対し、後者はポリエステルとの混紡である。

ロ 前者は二つボタンであるのに対し、後者は三つボタンである。

ハ 前者は袖口が絞りのあるいわゆる「ちようちん袖」であるのに対し、後者は切つたままの袖口になつている。

ニ 前者はポケットがないのに対し、後者はポケット付きである。

ホ 前者は、裾が両脇とも割れて切り込みがあり、しかも前面より背面が長く、運動しても裾が出ないように配慮してあるのに対し、後者はこのような裾の割れはない。

ヘ 前者のサイズ表示は、「HOMME」、「1/2PATRON」、「PATRON」というフランス語でなされているが、後者のそれは算用数字でなされている。

ト 前者は一着六八〇〇円であるのに対し、後者は五三〇〇円である。

このような両者の相違のほか、購買層も、前者がファッションに敏感な者であるのに対し、後者はデパート、量販小売店、スポーツ用品店からの購入者が多いこと等に差異があり、したがつて両者が混同されることはない。

(三) 被告商品の周知性

次に述べるとおり、被告商品であるアイゾッド社製品は、原告商品とは別に、我が国で広く知られるに至つており、両者が混同されることはない。

(1) 昭和四〇年代半ばころ、いわゆるワンポイントブームとして、種々のワンポイントマークを附したポロシャツが我が国に登場した。しかし、そのブームも下火となり、我が国における原告三共生興の取り扱う原告ラコステからの輸入商品の売り上げも低迷し、昭和五一年ころ、原告三共生興は右輸入商品の大量の在庫をかかえるような状況であつた。

(2) この間、海外への旅行や海外の情報の流入は著しく増加し、一般消費者、特に服装や流行に関心の深い若者層は、世界的に著名な原告ラコステの真正商品の標章は、原告表示ではなく、被告標章(一)のとおりであることを知るようになつた。

(3) 原告三共生興が我が国で原告ラコステからの輸入商品を取扱うようになる一〇年以上も前から、米国において原告ラコステのライセンシー(右詳細は並行輸入の抗弁の項参照)として同社商品を輸入、製造していたアイゾッド社は、我が国内とは比較にならない規模で宣伝、拡販活動を展開し、昭和五一、二年ころから米国内にアイゾッドブームを巻き起こした。

その様子は、米国への旅行者や雑誌等を通して我が国に伝えられ、そのデザイン、特に機能性や、ワニのマークが、原告商品と異なり、服地の色に合わせて、青、赤、黄等各種あることから、購売者間に輸入の要求が高まつた。

(4) そこで、被告ミウラは、昭和五二年春、被告新進貿易が輸入したアイゾッド社の製品を販売した(右詳細は並行輸入の抗弁の項参照)ところ、若者購買層を中心に爆発的な人気を呼び、青山や原宿等のいわゆるファッションタウンの若者達のファッションとして登場し始めた。

被告ミウラは、その後も被告新進貿易の輸入したアイゾッド社製品を販売し続け、売行きも好調であつたところ、昭和五三年八月一日発行のファッション雑誌「メンズクラブ」二〇八号において、米国でのアイゾッドラコステブームの紹介とともに、被告ミウラの店舗と被告商品の紹介をした記事が二頁見開きで掲載され、我が国においても、アイゾッドラコステのブームが惹き起こされた。

その後、昭和五四年八月一日発行の「メンズクラブ」二二一号において、再び同様の紹介記事が掲載され、我が国におけるアイゾッドラコステのブームは爆発的なものとなるに至つた。

被告新進貿易の被告商品の輸入、同ミウラの販売により、前記のとおり、アイゾッドラコステのブームが惹き起こされた結果、皮肉にも、原告商品の売行きも、それまで低迷していたにもかかわらず、再び伸びを示し始めたのであるから、原告三共生興は、右被告らの行為により莫大な利益を得たとはいいえても、利益を害されるおそれがあるとはいいえない。

第四  抗弁―真正商品の並行輸入

一  被告らの被告商品の輸入、販売行為は、原告ラコステに由来する真正商品の並行輸入であるから、実質的違法性を欠き、原告らは、本件商標権又は本件専用使用権に基づいて、被告らの右行為の差止め等を求めることはできない。

1  原告ラコステは、昭和八年ごろ、フランスにおいて、被告標章(一)と同一の商標及び「LACOSTE」の文字商標の商標登録を受け、以来、世界五〇カ国余においてこの商標を登録している。

2  被告商品は、次のとおり、右各商標の米国における商標権者であり原告ラコステの子会社に当たるラコステ・アリゲーター社のライセンシーであるアイゾッド社の真正商品である。

(一) 一九五〇年代初頭から、原告ラコステは、米国において、左胸にワニのワンポイントマークを付けたスポーツシャツの販売を企図し、一九五一年一〇月一日、ニューヨーク州法人であるデイビッド・クリスタル・インコーポレーティッド(以下「クリスタル社」という。)との間で、ライセンス契約を締結した。その内容は、原告ラコステが、クリスタル社に対し、原告ラコステ製のテニス用、ゴルフ用のシャツの独占販売権並びに「LACOS-TE」、「CHEMISE LACOSTE」の商標及び被告標章(一)を代表とするワニの商標についての独占的使用権を与えるものであつた。なお、この契約は、その後一九五八年八月に修正され、存続期間は一九八五年まで延長されている。

(二) 原告ラコステは、前記文字商標及びワニの商標を米国において登録出願したが、その当時既に米国においては、デラウェア州法人であるザ・アリゲーター・カンパニー・インコーポレイティッド(以下「アリゲーター社」という。)がワニの図形の登録商標を有していたため、原告ラコステの右出願のうちワニの商標については、一九五三年四月一〇日、米国特許庁により登録を拒絶された。

(三) 更に、一九五六年一二月一〇日、クリスタル社は、アリゲーター社から、ニューヨーク州南部地方裁判所に商標権侵害訴訟を提起され、一九五八年九月一六日、両社間に和解が成立し、同年八月一五日付の同意書をもつて原告ラコステも右和解を承認した。右和解は、クリスタル社側でのアリゲーター社の商標権の承認を前提とし、付属文書としてアリゲーター社とクリスタル社とのライセンス契約が添付されたものである。

ここにおいて、クリスタル社は、原告ラコステのライセンシーとしての地位とともに、アリゲーター社からもライセンスを得て、ワニの商標について登録商標との抵触問題を解決した。

(四) クリスタル社は、その男性服部門を従前からアイゾッド・ディビジョンの名称で活動させてきたが、一九五九年一二月一日、右部門をニューヨーク州法人であるアイゾッド社として独立させ、従前からの同部門の取扱商品等の資産及び関連する商標その他のライセンシーとしての地位一切を自己の一〇〇パーセント子会社であるアイゾッド社に譲渡した。その結果、アイゾッド社は、原告ラコステに対する一九八五年までのライセンシーとしての地位及びアリゲーター社のライセンシーとしての地位を合わせて取得した。

(五) 前記和解は、原告ラコステとアリゲーター社との間の直接の契約ではなかつたため、一九七〇年三月四日、原告ラコステがトイレット製品についての商標の使用権を第三者に与えたことに関連して、デラウェア州裁判所において、アリゲーター社が原告ラコステに対して訴訟を提起した。

(六) 右訴訟は、原告ラコステの敗訴という結果に終わつたが、これを契機として、両者間で商標関係の調整が行なわれ、その結果、スイスにラコステ・アリゲーター・エス・エイ(以下「ラコステ・アリゲーター社」という。)が設立され、一九七七年七月二五日、米国における「LACOSTE」等の文字商標の商標権は原告ラコステから、ワニの図形の商標権はアリゲーター社から、いずれもラコステ・アリゲーター社に譲渡された。

(七) ラコステ・アリゲーター社は、米国における右商標権の保護、管理を行うため、原告ラコステの全額出資の子会社がその株式の四七パーセント、米国ゼネラル・ミルズ社の全額出資の子会社がその株式の四七パーセント、六名の取締役がその株式の各一パーセントを保有する原告ラコステの孫会社というべき会社であり、原告ラコステの代表者であるミシェル・ラコストが代表取締役会長を務めている。同社は、従業員のいないいわゆるペーパーカンパニーであり、具体的に独自の活動もしておらず、その本社所在地も独立の事務所ではない。したがつて、同社は、単に法的主体を原告ラコステと異にしているというに過ぎず、並行輸入との関係においては、原告ラコステと同一視することができる。

なお、現在では、アイゾッド社はジェネラル・ミルズ社の子会社であり、クリスタル社及びアリゲーター社も、いずれもジェネラル・ミルズ社の傘下に吸収されている。

(八) 以上のとおり、アイゾッド社は、米国において、原告ラコステと同一視できるラコステ・アリゲーター社から正当に、世界的に著名な被告標章(一)ないし(四)及びLACOSTE標章の使用を認められており、被告新進貿易は、アイゾッド社が米国内において適法に製造した被告商品を適法に買い付け、これを輸入しているものである。

なお、ラコステ・アリゲーター社とアイゾッド社との間に、アイゾッド社の製造するラコステ製品を米国及びカリブ海諸国以外へ輸出することを禁止する約束が存したとしても、それは当事者間を拘束するに過ぎず、並行輸入の正当性とは何の関係もない。

3  原告ラコステは、我が国における本件商標権の権利者であり、原告三共生興は、その専用使用権者であつて、原告ラコステと同視し得る関係にある。

4  したがつて、被告商品に附されている右第三、一、1、記載の各商標と本件登録商標とが原告主張のとおり仮に類似しているとすれば、被告新進貿易が被告商品を輸入販売し、被告ミウラがこれを販売する行為は、真正商品の並行輸入及びその事後行為として実質的違法性を欠き、原告らが本件商標権又は本件専用使用権に基づき、被告らの右行為を差止めることは許されない。特に、被告商品に附された標章こそ世界五〇カ国以上で商標登録されている世界的著名商標であり、ラコステという著名なコンツェルンの商標であつて、本件登録商標は、我が国において既に別紙第三目録の各登録商標が存在していたため、やむなく被告標章(一)に代えて登録出願されたものであるから、商標が完全に同一でなくとも、並行輸入といつてよい。

二  真正商品の並行輸入の場合実質的違法性を欠くとの右法理は、不正競争防止法が機能する場面においても同様に働くことは疑いがない。

そもそも不正競争防止法は、商道徳に違反する形態の取引を防止することをその目的とする。したがつて、公正な取引についてまでその防止の機能が働くものではなく、公正な取引については、取引自由の原則が支配している。

そして、並行輸入に該当する場合を検討すれば、その場合にはその輸入品(真正商品)が国内の商標権者の販売する商品と出所源を同一とするがゆえに、たとえ現実の出所地を異にしても商標の有する商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能を害さず、よつて違法性を阻却するのであり、したがつて、その様な場合には、真正商品と国内の商標権者の販売する商品との競争はもはや、同一ブランド内での自由競争であることが予想されているのである。この様な取引行為は、まさしく自由競争が支配する公正な取引であり、違法性が阻却されるものといわざるを得ない。

これを本件についてみると、被告の輸入行為が並行輸入に該当することは既述のとおりであり、よつて、ラコステという傘の下における同一ブランド間の自由競争の場面であつて、不公正な取引に該当しないことは極めて明白である。

よつて、原告三共生興は不正競争防止法第一条第一項第一号の規定により被告らの被告商品の輸入、販売行為の差止め等を求めることはできない。

第五  抗弁に対する認否

一  抗弁一1の事実中、原告ラコステがフランスほか多数の国で、被告標章(一)と同一の商標の商標登録を受けていることは認める。

二  同2(一)の事実中、なお書部分は否認し、その余は認める。

昭和二六年に締結された原告ラコステとクリスタル社とのライセンス契約は、昭和五二年三月一五日をもつて終了した。

同2(二)及び(三)の事実はいずれも認める。

同2(四)の事実中、アイゾッド社が昭和六〇年まで原告ラコステのライセンシーとしての地位にあることは否認し、その余は認める。

アイゾッド社の原告ラコステに対するライセンシーとしての地位は、昭和五二年三月一五日をもつて終了した。

同2(五)及び(六)の事実はいずれも認める。

同2(七)の事実中、ラコステ・アリゲーター社の株式構成については認めるが、その余は否認する。

ラコステ・アリゲーター社は、原告ラコステの子会社が、ゼネラル・ミルズ社と均衡を保つて運営しているのであつて、原告ラコステの支配が及ぶ余地はない。

同2(八)の事実は否認する。

アイゾッド社製のラコステ製品は、ラコステ・アリゲーター社との関係で日本へは輸出できないことになつており、また、米国におてアイゾッド社製品の偽物が氾濫している現状からも、被告商品がアイゾッド社の真正品であることは極めて疑わしい。

三  同一3は争う。

仮に被告商品がアイゾッド社製品であるとしても、

(一)  アイゾッド社の使用商標と本件登録商標とは同一ではない。このことは被告らも認めている。

(二)  アイゾッド社と原告らとには何の関係もない。

(三)  アイゾッド社の製品と原告商品とが品質、デザイン等において相違することは被告らの自認するところである。

との事実が存する以上、被告商品は真正商品とはいえないし、その輸入行為も並行輸入行為とはいえない。

四  抗弁二は争う。

第六  証拠〈省略〉

理由

一請求の原因一について

1  原告ラコステが、出願日昭和四四年七月三一日、公告日昭和四六年三月二九日、登録日昭和五〇年九月八日、登録番号第一一五一八〇〇号、指定商品第一七類スポーツシャツ、その他本類に属する商品、登録商標の構成別紙第一目録(一)のとおりとする本件商標権を有していること、原告三共生興が、本件商標権について、地域日本全域、期間昭和五三年一二月八日から五年間、内容指定商品全部、登録日昭和五四年六月一八日とする本件専用使用権を有していること、被告新進貿易は、被告標章(一)をいわゆるワンポイントマークとして附した被告商品ポロシャツ、ソックス、セーター、ジャンパー及び帽子を米国から輸入した上、販売しており、被告商品のうちポロシャツ、セーター及びジャンパーには、その襟、部分に被告標章(二)又は(三)及びLACOSTE標章が附された織ネームが縫い付けられ、また、これらの商品には被告標章(四)及びLACOSTE標章を附した下げ札(タグ)が付けられた状態で販売していること、被告ミウラは、被告商品を被告新進貿易から購入した上で販売していることは、いずれも当事者間に争いがなく、被告商品が本件商標権の指定商品に属することは、右当事者間に争いのない事実から明らかである。

請求の原因一3中、被告らがその宣伝広告にLACOSTE標章又はラコステ標章を附している事実は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。

2(一)  本件登録商標が動物のワニの形態を図案化した本件商標図形と、そのワニの形状にそい、その胴体部に図案化した本件商標文字を表示したものであつて、図形と文字の結合した商標であることは当事者間に争いがなく、本件登録商標の構成を示すこと当事者間に争いのない別紙第一目録(一)に照らせば、本件商標文字は欧文字の「lacoste」と認められる。

(二)  本件商標図形について、原告らは、その特徴として、右向きの全体として横に長い形状をしていること、短い四肢であること、太くて長い尾をもちその先端が右向きであること、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けていること、口腔の上下に鋭い歯をもつていることを主張するが、これらはいずれもワニそのものの特徴かあるいはワニを図案化する際に多く用いられる手法によるものであつて、ワニの図案としてはその形態をある程度簡略化していることのほかは、格別特異な格好をしているとは認められない。そして、〈証拠〉によると、本件商標登録出願時既に、本件登録商標の指定商品とその指定商品を同じくする登録商標中には、ワニの図形を商標中に用いる別紙第三目録(二)(登録第四一二二九八号)、同目録(四)ないし(六)(登録第四四〇九四九号、同第四四二九四六号、同第四五六〇八九号)、同目録(九)ないし(一一)(登録第五一六九八六号、同第五三〇二九〇号、同第五七一六一二号)の各商標が存し、そのうち同目録(二)、(六)、(九)の各商標においては本件商標図形と同様にワニが右を向いており、右(二)と(九)の商標におけるワニは口を大きく開いて目のあたりまで裂けて、口腔の上下には鋭い歯があること、また、右(六)の商標におけるワニは尾の先端が右向きであること等において本件商標図形と類似しているし、同じく(一一)の商標においては、ワニが左向きてあることのほかは極めて本件商標図形と類似していること、更に無制限にワニの観念を生ずる別紙第三目録(一)の登録第四〇四二一九号商標も存在していたことが認められ、このことに照らすと、右各登録商標に遅れて出願、登録された本件登録商標は、単純なワニという称呼、観念が生ずるものとしてでは到底他の登録商標と区別され得ず、右各登録商標の存在により登録され得なかつたものと認められる。したがつて、本件登録商標の商標としての商品識別及び出所混同防止の機能を果すための特別顕著性は、右ワニの図形部分に「lacoste」との欧文字を付加した構成に有り、右構成としての外観、称呼、観念が生ずるというべきである。このことは、〈証拠〉により認められるところの、原告三共生興が大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第二三三三号商標権侵害禁止等請求事件において、登録第五七一六一二号商標(別紙第三目録(一一))の商標権に基づき、リー・セン・ミン・コンパニー・リミティッドから差止等請求を受けた際に、本件登録商標と同一の標章に関して「lacosteの文字がむしろ主体をなし、これからラコステのワニの観念は生じても、単なるワニの観念は生じない。」旨主張していることからも裏づけられるところである。原告らは、本件登録商標からワニの観念、称呼が生ずると主張するが採用できない。

(三)  右を前提に本件登録商標を全体として観察した場合、さして特徴のないワニの図形の胴体部分に「lacoste」の図案化された欧文字が記入されることによつて、右文字が浮彫りにされる如き印象を与えることが認められ、このことによれば、本件登録商標において本件商標文字は、商品識別及び出所混同防止の機能を果す上で大きな役割を有しているものと認められる。

そして、「lacoste」との欧文字は、現時の我が国の外国語に対する理解度からみれば、ラコステ又はラコストと発音されるべきことが通常の知識を有する国民に容易に理解されると認められるから、本件登録商標からは、「lacosteの文字入りワニ」あるいは「ラコステワニ」、「ラコストワニ」との観念、称呼のほかに、「ラコステ」、「ラコスト」との称呼をも生ずるというべきである。

3  そこで、本件登録商標と被告標章(一)ないし(四)及びLACOSTE標章を対比する。

(一)  被告標章(一)ないし(四)は、いずれも動物のワニの形態を図案化したもので、右向きの全体として横に長い形状をし、短い四肢で、太くて長い尾をもち、その先端は右向きであり、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けていること、口腔の上下には鋭い歯を持つている点で、本件商標図形と類似する点はあるが、被告標章(一)ないし(四)には、いずれも「lacoste」なる文字の部分がなく、「lacosteの文字入りワニ」、「ラコステワニ」、「ラコストワニ」との観念、称呼あるいは「ラコステ」、「ラコスト」の称呼が生ずるとは認められず、本件登録商標と被告標章(一)ないし(四)は、全体として観察した場合、外観においても相違すると認められるから、両者は類似しているものということはできない。

(二) 一方、LACOSTE標章については、「LACOSTE」との欧文字が本件登録商標において商品識別及び出所混同防止機能を果すうえで大きな役割を有している「lacoste」との欧文字の大文字であり、「ラコステ」、「ラコスト」と呼ばれることは容易に理解されると認められるから、外観において類似し、称呼において同一であり、全体として本件登録商標と類似するものと認められる。

被告らは、LACOSTE標章は別紙第二目録(五)ないし(九)のとおりに使用しており、そこから生じる称呼は「アイゾッドラコステ」、「ラコステアイゾッド」、「シュミーズラコステ」である旨主張する。しかしながら、LACOSTE標章の使用状況が被告ら主張のとおりであつたとしても、同目録(五)、(七)ないし(九)は、「IZOD」と「LACOS-TE」を別欄にして記載し、あるいはその字体も字の大きさも異つているのであるから、それぞれが別個の文字と把握されると認められ、同目録(六)については「LACOSTE」の文字の前に一字を明けて同じ字体で、同じ大きさで「CHEMISE」と記載されているが、「CHEMISE」なる文字は、一般の国民にはその意味、内容がなお理解し難いものと認められるので、やはり「CHE-MISE LACOSTE」 の文字からは「LACOSTE」の部分が「CHEMISE」の部分とは別のものとして把握されるものというべきであり、したがつて、右被告らの主張は理由がない。

4 以上の事実によると、原告らの被告らに対する本件商標権及び本件専用使用権に基づく請求のうち、被告標章(一)ないし(四)に関する部分は、これらの標章が本件登録商標に類似するとは認められない点で、また、ラコステ標章に関する部分は、被告らがこれを被告商品の広告に使用している事実が認められない点で、いずれも失当であるから、棄却を免れないが、LACOSTE標章に関する部分は、請求の原因一3中、被告らが被告商品の広告に右標章を使用している事実が認められない点で失当であるが、その余の請求原因事実は認められることとなる。

二請求の原因二について

1  〈証拠〉によると、原告三共生興は、スポーツシャツ、帽子、ソックス等の被服に、いわゆるワンポイントマークとして別紙第一目録(二)の原告表示を附した原告商品を販売していることが認められ、また、原告表示が本件登録商標を刺繍により表わしたもので、ワニの図形の外周を白色糸でふちどり、ワニ本体を濃緑色とし、文字を黒色、口の下部を赤色としたものであることは当事者間に争いがない。

2  〈証拠〉によると、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  一九三三年に、かつてのテニスチャンピオン、ルネ・ラコストによつて設立された原告ラコステは、同人がテニスの試合で着用していたスポーツシャツ等に同人の愛称となつていたワニをワンポイントマークとして附して、世界各国の市場に販売を開始し、以来このワニのワンポイントマークを附したシャツはワニマークのラコステシャツとして愛好され、世界七〇カ国余に販売されるに至つている。そして世界各国において被告標章(一)と同一のものを主とするワニマークについて商標登録をし(この事実は当事者間に争いがない。)、右ワニマークを基本にして日本において商標登録したものが本件登録商標である。以上のような事情から、原告ラコステの略称であり、その創立者の名称である「ラコステ」の名称とともに、LACOSTE標章及びラコステのワニマークは原告ラコステの製品を示すものとして今や世界的に著名なものとなつている。

(二)  原告三共生興は、このワニマークのラコステシャツを昭和三八年に、原告ラコステから三〇〇〇枚ほど輸入して以来、原告三共生興において、テレビ、雑誌等を通じて「ラコステ」の名称で大々的に宣伝したこともあつて、ゴルフの大衆化とともに訪れたワンポイントブームの潮流にも乗り、昭和四七年には三二万枚、同四八年には四〇万枚と大量に輸入して販売するようになつた。

(三)  原告三共生興は、昭和四六年からはパンタロン、スカート、帽子等につき、昭和四九年からはシャツについて原告ラコステとライセンス契約を締結して、その技術を導入し、その厳格な品質管理の下に、日本、韓国、台湾においてラコステ製品を独占的にライセンス生産することとなり、昭和五二年後半からのテニスブームに起因する再度のワンポイントブーム時には、昭和五三年に三〇万枚、同五四年に六一万枚、同五五年に九六万枚、同五六年には一四二万枚ほどのラコステシャツをライセンス生産して販売し、その上原告ラコステから輸入したシャツも昭和五三年、五四年には三〇〇〇枚、同五五年には八万枚ほど原告三共生興において販売し、その間、テレビ、雑誌等を通じて全国的に原告三共生興が原告ラコステと提携してそのライセンスの下に販売するラコステシャツとして宣伝をした。

(四)  原告三共生興は、わずかの例外を除いては、原告ラコステからの輸入商品及びライセンス生産の商品ともに、これを日本において独占的に販売してきており、これらの商品にワンポイントマークとして附されているのは、昭和三八年に輸入した七〇〇〇枚のうちの三〇〇枚以外はすべて原告表示もしくはこれと同様にワニの胴体部分に「lacoste」の欧文字が記されているものであつた。

以上の認定した事実によると、昭和三八年以来、原告三共生興が、原告ラコステから輸入し又は原告ラコステからのライセンスにより製造した原告表示を附したシャツ等原告商品を大量かつ継続的に販売し、かつテレビ等を通じて全国的に宣伝してきたことにより、遅くとも昭和四〇年代の中葉頃には、原告表示及び「ラコステ」の名称は、原告三共生興が原告ラコステと提携してそのライセンスの下に販売する原告商品を示す表示及び名称として広く認識されるに至つたものと認められる。

3  被告新進貿易が被告標章(一)をいわゆるワンポイントマークとして附した被告商品を米国から輸入した上販売していること、被告ミウラが被告商品を被告新進貿易から購入した上で販売していることは前示のとおり当事者間に争いがない。そこで右被告らの行為が原告表示又はこれと類似した表示を使用して、被告商品と原告商品の混同を生じさせるものといえるか否かについて検討する。

(一)  原告表示と被告標章(一)が同様にワニを図案化したもので、右向きの全体として横に長い形状をし、短い四肢、太くて長い尾をもち、その先端は右向きであり、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けていること、口腔の上下には鋭い歯をもつていることは前認定のとおりであり、また、〈証拠〉によると、被告標章(一)のスポーツシャツ、帽子、ソックス等におけるワンポイントマークとしての使用状況、位置関係、縫い付け状況等は、原告商品における原告表示のそれと同一で、両者の大きさも同じであるし、被告標章(一)のワンポイントマークのうちワニの本件部分が濃緑色の糸で刺繍されているものは、別紙第二目録(一〇)のとおりで、図形の切り込み、尾、脚、上顎、下顎を描いている線の太さ等についても原告表示と同一であるといつてよい。但し、被告標章(一)には、ワニの胴体部分に「lacoste」の文字の表示がなく、その代わりにワニの胴体部分にノコギリ状の線が入つており、これが黒色糸で刺繍されていること、及び被告標章(一)は、ワニの本体が濃緑色のもののほかに青色のもの等も存すること(右は、前掲各証拠により認める。)は、原告表示と異なるところではある。しかしながら、原告表示と別紙第二目録(一〇)の表示を比較してみると明らかなとおり、ワニの胴体部分にある「lacoste」との黒色糸による文字と、単なる黒色糸による模様との差異は、黒色糸が濃緑色の中にあつて目立たないこともあつて、離隔的に観察した場合には、さほど顕著なものとはいえないし(この点は、本件登録商標のように「lacoste」の文字が鮮明であるのとは異なる。)、また、ワニの本体の色彩にしても、その他の部分が前認定のとおり極めてよく類似している以上、色彩の相違のみが格別の意味を有するとは解せられない。

そうすると、被告標章(一)はこれを全体としてみた場合、原告表示と別異の表示とみられる程の差異はなく、両者は類似した商品表示であると認めることができる。

(二) 前認定のとおり、原告商品と被告商品とはその内容を同じくし、また、原告商品における原告表示と、被告商品における被告標章(一)の使用状況等も全く同一であることから、このような表示を附した商品が一般消費者に対して販売されることによつて、被告商品は原告商品と混同されるものと認められる。

(三)  被告らは、(1)原告商品と被告商品の表示の相違、(2)原産地表示の相違、(3)形態の相違、(4)被告商品の周知性から、両者が混同されることはない旨主張する。しかしながら、以下のとおり、右被告らの主張はいずれも理由がない。

(1) 被告商品がアイゾッド社製品であることが、仮にその販売態様から明瞭であつたとしても、被告らの主張によつても被告商品にはアイゾッド製との表示のみがなされているのではなく、「IZOD」、「LACOSTE」の双方の表示がなされているのであつて、被告商品を、原告商品と同じく、ラコステの商品でその出所を同じくする商品であると一般消費者が認識するのがむしろ当然というべきである。

(2) 原産地表示の相違についても、原告商品も前認定のとおりフランス製のものも、また原告三共生興製すなわち日本製のものもあるのであつて、被告商品には、米国製との表示があるとしても、原告三共生興が米国製品を全く扱つていないと一般消費者が認識していると認めるに足りる証拠もない以上、右原産地表示の相違のみによつて、両者が混同されることがないとはいい得ない。

(3) 商品の形態については、これが常に一定不変なものであるわけではなく、時代、流行等につれ変化するのは当然である。したがつて、ある時期の原告商品と被告商品の、それも一部分を抽出して、その両者の形態、値段等を比較することに格別の意味があるとはいえない。

(4) 証人中村裕の証言によると、被告商品の現在までの販売数量は、三〇〇〇枚余程度であつて、被告らは自からアイゾッド社製品を宣伝したこともなく、単にファッション雑誌「メンズクラブ」で二度ほどアイゾッド社製のラコステシャツと被告ミウラの店舗が紹介されたに過ぎないことが認められる。確かに一部のファッションに敏感な購買層には、アイゾッドラコステとしてアイゾッド社製品がもてはやされたことがあつたとしても、それはごく限られた範囲内でのことであつて、一般消費者がアイゾッド社製品と原告ラコステからの輸入品もしくは原告三共生興製のラコステ商品を直ちに見分けることができるほどにアイゾッド社製品が広く知られるに至つているとは到底認めることはできない。そうすると、右被告らの主張はいずれも理由がないというほかはない。

4 以上のとおり、被告らは、原告三共生興の原告表示と類似する被告標章(一)の商品表示を使用した商品を販売、拡布して、原告商品と混同を生ぜしめたのであるから、原告三共生興は、右被告らの行為によつて営業上の利益を害されるおそれがあるものと認められる。〈反証排斥略〉

三抗弁(真正商品の並行輸入)について

1  原告ラコステがフランスほか多数の国で被告標章(一)と同一の商標の登録を受けていること及び抗弁一2(一)の事実(但しなお書きの部分を除く。)、同一2(二)及び(三)の事実、同一2(四)の事実(但し、アイゾッド社が一九八五年まで原告ラコステのライセンシーとしての地位にあることを除く。)、同一2(五)及び(六)の事実並びにラコステ・アリゲーター社が原告ラコステの全額出資の子会社(〈証拠〉によると、同社はスボルロワジエ・エス・エーである。)がその株式の四七パーセント、米国ゼネラル・ミルズ社の全額出資の子会社(〈証拠〉によると、同社はシーピージープロダクツである。)がその株式の四七パーセント、六名の取締役がその株式の各一パーセントを有する会社であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると原告ラコステはフランスにおいてはLACOSTE標章についても商標登録していることが認められる。また、〈証拠〉によると、ラコステ・アリゲーター社の現在の代表者は、原告ラコステの代表者と同じく、ミシェル・ラコストであること、ラコステ・アリゲーター社の業務内容は、米国、カナダ、カリブ海諸国において、ワニマークの商標(これが被告標章(一)と同一であることは〈証拠〉により認められる。)及びLACOSTE標章を商標登録して所有し、ライセンスを許諾すること、前記ライセンスに関し使用料を徴収すること、前記商標の下に販売をする商品の品質を管理することであり、この権限に基づいて、アイゾッド社ほか数社に対して、右地域における右各商標につきライセンスを与えていること、右ライセンス商品についてはその品質の管理を厳格に行なつていることが認められる。

そして、〈証拠〉によると、被告商品は、アイゾッド社がラコステ・アリゲーター社とのライセンス契約上、そのライセンスに基づいて生産した製品の販売地域を米国及びカリブ海諸国に限定され、これ以外の地域に輸出すること、輸出商社にこれを販売することを禁じられているので、特殊な経路すなわちアイゾッド社から名義上はローリング・ヒルズ・カントリークラブへ売却されたことにし、そこからエス・ワイ・トレーディング社、更にニシザワ・リミティッドを経て被告新進貿易によつて我が国へ輸入されて被告ミウラへ納品されたもので、アイゾッド社がラコステ・アリゲーター社とのライセンス契約に基づき生産した商品であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 右1の事実、前記二2(一)ないし(四)及び同二3(一)、(二)の事実によれば、原告ラコステは、その略称であり創立者の名称でもある「ラコステ」の名称とともに著名となつているLACOSTE標章及び被告標章(一)及び本件登録商標を含むラコステのワニマークを附した商品の出所源として我が国を含め世界的に認識され、また、このように認識されていることから生ずる業務上の信用維持のために、自ら、又はその資本的なつながりを通じて支配を及ぼすことのできるラコステ・アリゲーター社によつて、右各商標の管理をし、米国及びカリブ海諸国をその販売地域と定められたアイゾッド社や日本、韓国及び台湾をその販売地域と定められた原告三共生興のようなライセンシーに対し、その製造販売する商品の品質管理を厳格に行なつていることが認められ、この意味で米国におけるアイゾッド社も我が国における原告三共生興も、原告ラコステの信用の下でその信用を利用してその製造するラコステ商品を販売している点で同じ立場にあり、原告表示が原告三共生興の販売する原告商品を示す表示として広く認識されているのも、原告三共生興が世界的に著名な原告ラコステと提携しそのライセンシーとしての立場にあることに由来するものというべきである。そして、本件登録商標とLACOSTE標章、原告表示と被告標章(一)は標章の構成として同一ではないがそれぞれ類似していることは前認定のとおりであり、ともにその出所源として原告ラコステを示す一連のラコステ標章として同一視すべきものである。原告商品と被告商品との間に被告主張のような品質、形態の差異があるとしても、被服の品質、形態等については、これが一定不変というわけではなく、流行、時代等につれて当然に変化するものであることのほか、前記のとおり、原告ラコステが、日本におけるライセンシーである原告三共生興と、原告ラコステと資本的なつながりを通じて支配を及ぼすことのできるラコステ・アリゲーター社の米国におけるライセンシーであるアイゾッド社に、ラコステ標章として同一視できる商標の下で、品質、形態等の異なる商品を製造することを許容しているのであるから、右商品の品質、形態の差異は、世界的に著名な原告ラコステを出所源として表示する商品として、その許容された範囲内での差異というべきものであり、このことによつて商標の品質保証機能が損われることはないというべきである。

そうすると、本件登録商標あるいは原告表示と同様にその出所源として原告ラコステを表示しているLACOSTE標章あるいは被告標章(一)を附した被告商品を輸入しても、本件登録商標及び原告表示の出所識別機能、品質保証機能を損うことはなく、原告ラコステあるいは原告ラコステのライセンシーであり原告ラコステの信用の下でその信用を利用してラコステ商品を販売している原告三共生興の業務上の信用を害することも、一般消費者の利益を害することもないと認められる。

3 以上に認定した事実関係によると、被告らによるLACOSTE標章を附した被告商品の輸入販売行為は、商標法第一条に定める商標法の目的である商標を使用する者の業務上の信用を害することも、また、需要者の利益の保護を害することもなく、商標法が右目的達成のために保護している商標の出所識別及び品質保証の各機能を害することはないと認められるのであるから、右輸入行為及びその事後行為としての販売行為は、実質的違法性を欠き、これに対し、原告ラコステの本件商標権及び原告三共生興の本件専用使用権に基づく禁止権を行使できないと解するを相当とする。

また、不正競争防止法が商道徳に違反する形態の不正な競争行為等を防止することをその目的とし、公正な取引について制限を課するものではなく、同法第一条第一項第一号の規定の趣旨が周知表示に化体されている他人の業務上の信用にただ乗りする不正競争行為を禁止するものであることからして、原告表示と同一の出所源を示す被告標章(一)を附した被告商品の輸入販売行為は右の意味での不正競争行為ということはできず、実質的違法性を欠き、これに対し、原告三共生興は、右規定による禁止権を行使できないと解するを相当とする。

なお、前記認定のように、アイゾッド社はラコステ・アリゲーター社とのライセンス契約上、そのライセンスに基づいて生産した製品の販売地域を米国及びカリブ海諸国に限定され、これ以外の地域へ輸出すること、輸出商社にこれを販売することを禁じられていること、また、原告三共生興は原告ラコステとのライセンス契約上、そのライセンスに基づいて生産した製品の販売地域を日本、韓国及び台湾に限定されていることが認められ、これによれば、原告ラコステは、そのライセンシーを通じ世界市場を地域的に分割する販売政策をとつていることが推認され、被告商品が日本に輸入され販売されることは、結果としてこれに反することとはなるが、右に述べた我が国の商標法及び不正競争防止法の適用上被告の行為が実質的違法性を欠くかどうかを判断するに当たり考慮すべき事実とはならないというべきである。

四結論

以上の次第で、原告らの被告らに対する請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(牧野利秋 飯村敏明 高林龍)

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